大阪地方裁判所 平成5年(ワ)2694号 判決 1999年6月22日
大阪市都島区大東町一丁目一〇番三七-一三二〇号
原告
亡山本輝雄訴訟承継人
山本惠美
右同所
原告
株式会社クロスフロウ
右代表者代表取締役
山本惠美
右両名訴訟代理人弁護士
村林隆一
大阪市阿倍野区長池町二二番二二号
被告
シャープ株式会社
右代表者代表取締役
辻晴雄
右訴訟代理人弁護士
高坂敬三
右補佐人弁理士
伊藤英彦
同
深見久郎
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告山本惠美(以下「原告山本」という。)に対し、金四億四三六七万一二三二円及びこれに対する昭和六一年二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告株式会社クロスフロウ(以下「原告会社」という。)に対し、金五億五六三二万八七六八円及びこれに対する平成元年七月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告らの請求原因
1(原告らの特許権)
承継前原告亡山本輝雄は昭和五八年四月一三日から同六一年二月二三日まで、原告会社は同年二月二四日から平成元年七月一七日まで、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有していた(平成元年七月一七日をもつて存続期間満了)。
(一) 発明の名称 横断流送風機
(二) 出願日 昭和四四年七月一七日(特願昭四四-五七五五八)
(三) 公告日 昭和五七年四月二一日(特公昭五七-一九三一七)
(四) 登録日 昭和五八年四月一三日
(五) 特許番号 第一一四一三二二号
(六) 特許請求の範囲
本件特許権の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報の該当欄記載のとおりである。
2(本件発明の構成要件の分説)
本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
イ ケーシング内に羽根車を設け、
ロ(1) 羽根車の軸方向に沿って設けた舌部によりケーシングの開放部分を流入側空間と流出側空間とに分けた横断流送風機において、
(2) 上記羽根車外周に接するか又は接近して
(3) 帯状環体を設けた
ハ ことを特徴とする横断流送風機
3(原告山本の地位)
原告山本は、平成一〇年一一月二七日死亡した承継前原告山本輝雄の権利を相続により承継した。
4(被告の行為)
被告は、昭和五八年三月一七日から平成元年七月一七日までの間、別紙イ号物件目録(原告)記載のエアコン(以下「イ号物件」という。)及び別紙ロ号物件目録(原告)記載のエアコン(以下「ロ号物件」という。)を製造販売した。なお、イ号物件の型式を例示すればAY-二三六Wであり、ロ号物件の型式を例示すればAH-一八Y一Fであるが、これらは例示であって、各物件をこれら型番のものに限定する趣旨ではない。
5(侵害性)
(一) イ号物件は、本件発明の構成要件イ及びロ(1)を満たすほか、隠蔽凹部14、15又は仕切板21が「帯状環体」に該当するから、構成要件ロ(2)(3)も充足し、全体として本件発明の技術的範囲に属する。
(二) ロ号物件も同様である。
6(利得額)
4の期間に被告はイ号物件及びロ号物件を合計三七七万三四八〇台製造販売したが、平均販売単価は二〇万円であり、本件特許権の実施料相当額はその三パーセントが相当であるので、被告の不当利得額は二二六億四〇五八万円である
7(まとめ)
よって、原告らはそれぞれ、不当利得返還請求権に基づき、被告に対し、前記不当利得額のうち請求の趣旨記載の金員の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1(原告らの特許権)は認める。
2 請求原因2(本件発明の構成要件の分説)は認める。
3 請求原因3(原告山本の地位)は認める。
4 請求原因4(被告の行為)は否認する。
(一) イ号物件は、別紙イ号物件目録(被告)のとおり特定されるべきである。右は原告ら指摘の型式の被告製エアコンの構造を図面と説明によって特定したものである。
(二) ロ号物件は、別紙ロ号物件目録(被告)のとおり特定されるべきである。右は原告ら指摘の型式の被告製エアコンの構造を図面と説明によって特定したものである。
5 請求原因5(侵害性)について
(一) イ号物件が本件発明の構成要件(イ)及び(ロ)(1)を充足することは認めるが、その余は否認する。隠蔽凹部14、15も仕切板21も「帯状環体」とは形状が異なり、その構成を備えていない。
(二) ロ号物件が本件発明の構成要件を充足することは否認する。
6 請求原因6(利得額)は否認する。
7 請求原因7(まとめ)は争う。
三 被告の抗弁(ロ号物件に関する消滅時効)
被告はロ号物件たる型式AH-一八Y一Fを、少なくとも昭和五八年三月二三日以降に販売したことはない。したがって、ロ号物件については、最終の販売時点から本訴提起日(平成五年三月二三日)までに一〇年を経過しているので、不当利得返還請求権について消滅時効が完成しており、被告は右時効を援用する。
四 抗弁に対する原告の認否
抗弁の主張は争う。原告は、別紙ロ号物件目録(原告)の構造を具備するすべての被告製エアコンをロ号物件として対象としており、原告指摘の型番によって対象を限定するものではないから、被告の抗弁は失当である。
第三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。
理由
一 イ号物件及びロ号物件の特定(請求原因3)については、当事者間に争いがあるが、仮に原告の主張を前提とした場合に、侵害性(請求原因4)が認められるかについて検討する。
二 まず、本件発明の「羽根車外周に接するか又は接近して」設けられた「帯状環体」(構成要件ロ(2)(3))の意義について検討する。
1 特許請求の範囲には、単に「帯状環体」としか記載がないが、一般の語義として、「帯」とは「<1>着物の上から腰に巻いて結ぶ細長い布、<2>石帯、<3>帯の形をしたもの、<4>「いわたおび」の略、<5>太刀」を意味するものとされ(岩波書店「広辞苑(第五版)」、また、「環」とは「<1>玉の輪、たまき、<2>輪の形をなすもの、<3>まわりめぐること、とりまくこと、<4>略」(同)とされているから、「帯状環体」とは、細長い布状の輪の形状を有するものと理解される。
しかし、これだけでは「帯状環体」の具体的範囲や性質について明らかにならないので、さらに本件明細書の記載を参酌して判断する必要がある。
2 甲2によれば、本件明細書中に次の記載があることが認められる(明細書の記載中、図中の符号を示す部分は省略した。)。
(一) 発明の目的に関して、「横断流送風機において、流入流れを舌部によつてコントロールし、渦流の変動性を抑制することが行われるが、この発明は上記の如き舌部によることなく、羽根車の外周にはめた環体によつて渦流の変動制(変動性の誤記と認める。)を抑制し、流れを安定化することにより、性能が高く、回転音の発生し難い横断流送風機を提供することを目的としている。」(本件公報1欄29ないし33行目)
(二) 帯状環体の形状に関して、「環体は流入流量に影響を及ぼさない程度の幅であればよく、通常数mm乃至一〇mm程度の幅であり、その固定位置は羽根車の軸方向に任意の位置であればよい。またその数は一個あればよく、羽根車の長さに応じて複数個設けられる場合もある。更に、第三図に示すように、羽根車の外周に接近して同様の帯状環体をケーシングに固定するようにしてもよい。」(本件公報2欄1行目ないし8行目)
(三) 発明の作用効果に関して
(1) 「(帯状環体を)設けない場合は…渦流中心部は舌部に近い部分に存在するが、環体を設けた場合は…渦流中心部は舌部の先端部分から羽根車の回転方向…と反対の方向に変移した位置を占める。」(本件公報2欄11行目ないし16行目)
(2) 「渦流中心部がこのように変移するのは、流出側の流れが環体に衝突するためである」(同2欄16行目ないし18行目)
(3)「この発明によれば、舌部に関係なく、渦流中心部を舌部の先端部から羽根車の反回転方向に変移せしめることができる。このような渦流中心部の変移が生じること及びそれによつて回転音の発生が抑制され且つ高い性能を得られることは、次の如き実験によつて確かめることができる。」
(同2欄26行目ないし32行目)
(四) 実験結果に関して
(1) 回転音の発生の抑制に関しては、横断流送風機の流量を全開状態にした場合における騒音を周波数分析器によって測定したところ、帯状環体を付けない場合には三八〇Hz付近に見られた回転音ピークが、羽根車の外周に帯状環体を付けた場合には見られなかったという実験結果が示されている(本件公報第四図)。
(2) 渦流中心の変移及び渦流の変動性の抑制に関しては、羽根の中間部分と腹部分とに熱線プローブを取り付けて、回転に伴う翼間流れ及び翼腹流れの変化をシンクロスコープによって測定したところ、<1>渦中心部は帯状環体を付けることによって測定角度の小さい側(反回転方向)に変移すること、<2>渦中心と舌部間の渦流変動性も帯状環体を付けることによって小さくなることが確認されている(本件公報第五図)。
3 本件明細書の右記載に1で述べた一般的語義を併せれば、本件発明における帯状環体は、細長い布状の輪の形状を有し、横断流送風機の軸方向の任意の位置に、羽根車の外周に沿うか又は外周に接近して、一個以上設けられるものであり、流出側の流れが衝突することによって渦流の中心部を舌部の先端部分から反回転方向に変移させ、それによって渦流の変動性を抑制し、流れを安定化させて回転音の発生を抑制する作用を営むものであると認められる。
4 ところで、甲3、甲8及び承継前原告山本輝雄本人の供述によれば、横断流送風機内部の横断流は、流入側から流出側に至る二次平面流れがその本質であるが、羽根車両側の閉鎖端板内側に接する部分は、右閉鎖端板との摩擦により速さが一定でなく、不安定な流れ(いわゆる境界層変動)が生じることが認められるから、このような閉鎖端板内側に接する部分の流れは、それ以外の部分の流れとは全く性質の異なる流れとなっているというべきであり、二次元的流れの部分で妥当する帯状環体の機能が、境界層変動の部分でも同様に生じるかは自明とはいえない。
しかるところ、本件明細書においては、帯状環体の作用効果について、前記2で引用した記載があるのみであり、またその軸方向の位置を示す具体例としては横断流送風機の軸方向の中心部に帯状環体を設けたものが第一図において示されているだけで、閉鎖端板内側に接する部分の境界層変動を考慮した記載は皆無である。さらに、本件明細書記載の実験においても、特に境界層変動が生じる場合の渦流中心部の変移や回転音の抑制を確認したものはない(右実験における帯状環体の位置は定かではないが、本件明細書中で唯一開示されている第一図に沿ったものと推認され、少なくとも帯状環体を端部に設けた実験ではないと推認される。)。甲3、甲8及び承継前原告山本輝雄本人の供述中には、帯状環体を羽根車端部に設ける場合には、本件発明は境界層変動を抑制する作用をも有する旨を述べる部分があるが、本件明細書の記載に照らせば、本件発明においてそのような技術思想が開示されているということはできない。
以上からすれば、本件発明における帯状環体の位置は、本件明細書中では「軸方向に任意の位置でよい」(前記2(二))との記載があるが、その位置は境界層変動の影響を受ける閉鎖端板付近は含まれないものと解するのが相当である。
5 また、前記2(一)(三)での本件明細書における記載からすれば、本件発明における帯状環体は、横断流送風機の流出側の流れと衝突することによってその機能を営むものと認められ、具体的な例においても、横断流送風機の外周に接して設けられる場合(本件公報第二図)と外周の外側に近接して設けられる場合(同第三図)しか開示されておらず、外周の内側(羽根車の内部)に設けられて内部の流れに衝突する場合については何ら説明がないばかりか、実験における確認もなく(本件明細書の記載からすれば出願人が行った実験は帯状環体を外周に固定した場合の実験であると推認されることは前記のとおりである。)、同様の作用効果が生じるか否かも自明とはいえない。
したがって、本件発明における帯状環体の位置は、特許請求の範囲上は「羽根車外周に接するか又は接近して」設けられたとされているにすぎないが、少なくとも羽根車内部に設ける場合は含まれないと解するのが相当である。
三 イ号物件及びロ号物件の隠蔽凹部の「帯状環体」該当性について
1 イ号物件及びロ号物件における隠蔽凹部は、羽根車両端部を収納する外側ケーシングに設けられた有底円筒形の凹部であり、羽根車の両端部とはイ号物件においては七mm、ロ号物件においては五mmの幅で重なっているにすぎず(別紙イ号物件目録(原告)第二図、別紙ロ号物件目録(原告)第二図参照)、この部分は境界層流れの影響を受ける端部の領域であるから、隠蔽凹部は本件発明の「帯状環体」に該当しないというべきである。
2 これに対し原告は、甲8の実験により、隠蔽凹部が本件発明の作用効果を奏することを確認したとするが、右実験においては、本件発明の作用効果である渦流中心部の変移については何ら検証されていないから、右主張は採用できない。
また原告は、甲10の実験(及びその説明である甲11ないし13)により、隠蔽凹部が本件発明の作用効果を奏することを確認したと主張する。しかし、<1>右実験の説明書として提出された甲11ないし13と、右実験経過を収録したビデオテープである検甲3との内容が符合せず、実験の全体像を把握することができないこと、<2>甲11によれば、本件実験時の暗騒音は四四ないし四九デシベルと大きな変動があったにもかかわらず、測定結果であるオーバーオール値は五一ないし五三デシベルの範囲でしか差異が生じておらず、またJISで定める騒音測定法(甲13の資料2)では暗騒音の影響について補正による推定を要する測定環境下で、各ケースの測定は一回しか行っていないのであるから、測定誤差の影響が十分に考えられること、<3>本件発明の作用効果である渦流中心部の変移が検証されていないこと(甲13では、別の実験結果である同図1ないし4によってこの点が示されたとされているが、右実験に供された横断流送風機(同写真13)はイ号物件及びロ号物件におけるものとは大きく異なるほか、図4によれば環状リングを付けた場合には渦流の中心が舌部に近づく結果となっており、これは本件明細書における記載(前記2(二)(1))とは逆方向である。)から、甲10を根拠として、イ号物件及びロ号物件における隠蔽凹部が本件発明の作用効果を奏していると認めることはできない。
四 イ号物件及びロ号物件の仕切板の「帯状環体」該当性について
1 検甲1及び2によれば、イ号物件における仕切板は、羽根車内部に八枚設けられたドーナツ状の板であり、外周は羽根車の外周に接し、外周と内周の間の半径方向の長さは約一七mm、厚み方向の幅は約四mmである。また、ロ号物件における仕切板は、羽根車内部に四枚設けられたドーナツ状の板であり、外周は羽根車の外周に接し、外周と内周の間の半径方向の長さは約三四mm、厚み方向の幅は約四mmであると認められる(別紙ロ号物件目録(原告)の構成の説明(4)においては仕切板の枚数は八枚とされているが、その第一図においては四枚とされており、検甲2によれば後者であると認められる。また、羽根車の枚数によって後記結論が左右されることはない。)。
右よりすれば、これらの仕切板は、いずれも羽根車の内部にあって、内部における空気の流れに衝突するものであるから、「羽根車外周に接するか又は接近して」設けられたものとはいえない。
2 この点について原告は、甲10の実験(及びその説明である甲11ないし13)により、仕切板が本件発明の作用効果を奏することを確認したと主張するが、右実験は羽根車の両端の外周にテープを巻き付けて行った実験であり、羽根車の内部で空気流れと衝突する本件仕切板とは異なるものについての実験であることに加え、渦流中心部の変移について確認がされていないことは前記隠蔽凹部についてと同様であるから、甲10をもって仕切板が本件発明の帯状環体と同様の作用効果を奏するものと認めることはできない。
五 結論
以上によれば、イ号物件及びロ号物件は、いずれも本件発明の技術的範囲に属しないから、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(平成一一年三月一八日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官瀬戸啓子は、転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 小松一雄)
<19>日本国特許庁(JP)
<11>特許出願公告
<12>特許公報(B1)
昭57-19317
<51>Int.Cl.3
F04D 17/04
識別記号
庁内整理番号
6459-3H
<24><44>公告 昭和57年(1982)4月21日
発明の数 1
(全3頁)
<54>横断流送風機
審判 昭52-15043
<21>特願 昭44-57558
<22>出願 昭44(1969)7月17日
<72>発明者 山本輝雄
姫路市北条974番地山本金属プレス工業所内
<71>出願人 山本輝雄
姫路市北条974番地山本金属プレス工業所内
<74>復代理人 弁理士 鎌田文二
<56>引用文献
日本機械学会関西支部第217回講演会前刷 昭40.11.5 第39~42頁
図面の簡単な説明
第1図は羽根車部分の断面図、第2図は第1図の羽根車を使用した横断流送風機の断面図、第3図は他の例の断面図、第4図のA及びBは周波数分析図、第5図A1、B1は翼間流れ、A2、B2はA1、B1に対応する翼腹流れの波形図である。発明の詳細な説明
この発明は横断流送風機に関し、高性能を発揮すると共に回転音を抑制し得る横断流送風機に関するものである。
横断流送風機において、流入流れを舌部によつてコントロールし、渦流の変動性を抑制することが行なわれるが、この発明は上記の如き舌部によることなく、羽根車の外周にはめた環体によつて渦流の変動制を抑制し、流れを安定化することにより、性能が高く、回転音の発生し難い横断流送風機を提供することを目的としている。
以下、この発明の実施例を第1図乃至第3図に基づいて説明する。
第1図及び第2図に示すように、この発明は横断流送風機の羽根車2の外周に帯状環体6を固定したものである。上記環体6は流入流量に影響を及ぼさない程度の幅であればよく、通常数mm乃至10mm程度の幅であり、その固定位置は羽根車2の軸方向に任意の位置でよい。またその数は1個あればよく、羽根車2の長さに応じて複数個設けられる場合もある。更に、第3図に示すように、羽根車2の外周に接近して同様の帯状環体6'をケーシング1に固定するようにしてもよい。
上記の如き環体6、6'を設けない場合と、設けた場合について渦流の位置について観察してみると、設けない場合は第2図の1点鎖線で示す如く、渦流中心部a1は舌部3に近い部分に存在するが、環体6、6'を設けた場合は同図に実線で示す如く、渦流中心部a2は舌部3の先端部分から羽根車2の回転方向(同図矢印参照)と反対の方向に変移した位置を占める。渦流中心部がこのように変移するのは、流出側の流れが環体6、6'に衝突するためであるが、環体6、6'が存在する部分において上記の如き変移が生じると、環体6、6'の両側に存在する渦流中心部a1は、低い負の静圧や空気の粘性等の影響によつて渦流中心部a2の方向に引き寄せられて変移する。その変位は羽根車2の軸方向に次第に波及し、ついには羽根車2の全長にわたり、渦流中心部a2の位置に揃い変移が完成する。
上記のように、この発明によれば、舌部3に関係なく、渦流中心部を舌部3の先端部から羽根車2の反回転方向に変移せしめることができる。このような渦流中心部の変移が生じること及びそれによつて回転音の発生が抑制され且つ高い性能を得られることは、次の如き実験によつて確めることができる。
〔実験の内容及び結果〕
羽根車は、直径240mm、羽根枚数36枚、外周羽根角25°のものを使用した。流量全開状態における騒音を周波数分析器によつて記録した。第4図Aは帯状環体のない場合であり、回転音
(矢印で示すピーク)が表われている。同図Bは帯状環体を羽根車の外周に固定した場合であり、回転音が発生していない。なおこれらの図においてSPLは騒音全体の強さであり、SPLの記録後同一レンジで分析周波数を記録したものである。また、符号
次に、上記A及びBの場合の渦流中心の変移及び渦流の変動性の抑制効果を知るため、第1図に示すように羽根8の中間部分に熱線プローブH1、羽根8の腹部分に熱線プローブH2を取付け、羽根車2が1回転する間に羽根8の中間部分の流れ(翼間流れ)及びその流れに対応した羽根8の腹部分の流れ(翼腹流れ)がどのように変化するかをシンクロスコープによつて調べた。その結果は第5図のA1、B1(プローブH1に対応)、A2、B2(プローブH2に対応)に示すとおりである。A1、A2は環体のない場合B1、B2は環体のある場合である。これらの図はプローブH1、H2の出力波形であり、縦軸は流速に対応した電圧、横軸は周方向の角度(0°~360°)であり、角度0°はケーシング1の流入側端部である。各図中斜めの矢印は渦中心を示す。これらの結果から、環体を設けることにより、渦中心が図の左方、即ち羽根車の反回転方向へ変移していること、また上記環体を設けた場合は、A2とB2を比較するとよくわかるように、渦中心と舌部先端間の変動性が抑制されていることがわかる。渦中心と舌部先端間における流れの変動性が抑制されているということは、渦中心の周辺に存在する強制渦の流れが上記部分から羽根車に流入する際の変動性が抑制されているということであり、そのために、回転音の発生が抑止され、また高性能を発揮することができるものである。
<57>特許請求の範囲
1 ケーシング内に羽根車を設け、羽根車の軸方向に沿つて設けた舌部によりケーシングの開放部分を流入側空間と流出側空間とに分けた横断流送風機において、上記羽根車外周に接するか又は接近して帯状環体を設けたことを特徴とする横断流送風機。
<省略>
(別紙) イ号物件目録
原告 【図面の簡単な説明】 第1図は、横断流送風機の正面図である。 第2図は、正面から見た横断流送風機の断面図である。 第3図は、第1図のA-A線断面図である。 第4図は、第1図のB-B線断面図である。 第5図は、第1図のA-A線切段端面図である。
被告 同左 同左(ただし図面は第2図(被告)のとおり)。 同左(ただし図面は第3図(被告)のとおり) 同左(ただし図面は第4図(被告)のとおり) 同左
第6図は、第3図のC-C線断面図である。 【符号の説明】 10 ケーシング 13 舌部 14、15 隠蔽凹部 20 羽根車 21 仕切板 22、23 端板 30 熱交換器 40 吹出口 50 ドレンパン 60 隠蔽凹部14の開放端 61 隠蔽凹部15の開放端
同左 同左(13舌部を除く)
【構成の説明】 (1) ケーシング10内に羽根車20を設け、羽根車20の軸方向に沿ってケーシング10の開放部分を流入側空間と流出側空間とに分けた横断流送風機である。 (2) 羽根車20の回転により、室内の空気は、熱交換機30を通ってケーシング10内に吸い込まれ、さらに吹出口40から送り出されて室内吹出流となる。吸い込まれる空気は、熱交換機30を通過する際に熱交換されて冷風又は温風となる。 (3) 羽根車20の直径は82ミリで、全長はおよそ640ミリである。尚、Xは7ミリ
(1) 同左 (2) 同左 (3) 羽根車20の直径は82ミリで、全長はおよそ630ミリである。
である。 (4) 羽根車20は、中心穴を有する8枚の仕切板21によって軸方向に9個の領域に区分されている。 (5) 両端板22、23に面するケーシング10の両側壁には、橋板22、23を隠蔽する内壁有底円筒形の隠蔽凹部14、15が設けられている。 (6) ドレンパン50は、熱交換機30から落する結露水を集めるものである。 (7) 第2図及び第6図の破線60、61は、左右の隠蔽凹部14、15の開放端である。
(4) 同左 (5) 同左 (6) 同左 (7) 同左
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第2図(被告)
<省略>
第3図(被告)
<省略>
第4図(被告)
<省略>
(別紙) ロ号物件目録
原告 【図面の簡単な説明】 第1図は、横断流送風機の正面図である。 第2図は、正面から見た横断流送風機の断面図である。 第3図は、第1図のA-A線断面図である。 第4図は、第1図のB-B線断面図である。第5図は、第1図のA-A線切断端面図
被告 同左(ただし図面は第1図(被告)のとおり) 同左(ただし図面は第2図(被告)のとおり) 同左(ただし図面は第3図(被告)のとおり) 同左(ただし図面は第4図(被告)のとおり) 同左(ただし図面は第5図(被告)のと
である。 第6図は、第3図のC-C線断面図である。 【符号の説明】 10 ケーシング 13 舌部 14、15 隠蔽凹部 20 羽根車 21 仕切板 22、23 端板
おり 同左(ただし図面は第6図(被告)のとおり) 第7図は、正面から見て左側に位置するケーシングの左側壁11を示す斜視図である。 第8図は、正面から見て右側に位置するケーシングの右側壁12を示す斜視図である。
10 ケーシング 11 左側壁 12 右側壁 14 隠蔽凹部 15 貫通穴 20 羽根車
30 熱交換器 40 吹出口 50 ドレンパン 60 隠蔽凹部14の開放端 61 隠蔽凹部15の開放端
【構成の説明】 (1) ケーシング10内に羽根車20を設け、羽根車20の軸方向に沿ってケーシング10の開放部分を流入側空間と流出側空間とに分けた横断流送風機である。 (2) 羽根車20の回転により、室内の空気は、熱交換機30を通ってケーシング10内に吸い込まれ、さらに吹出口40から
21 仕切板 22、23 端板 30 熱交換器 40 吹出口 50 ドレンパン 70 モータ (1) 同左 (2) 同左
送り出されて室内吹出流となる。吸い込まれる空気は、熱交換機30を通過する際に熱交換されて冷風又は温風となる。 (3) 羽根車20の直径は94ミリで、全長はおよそ594ミリである。尚、Xは5ミリである。 (4) 羽根車20は、中心穴を有する8枚の仕切板21によって軸方向に9個の領域に区分されている。 (5) 両端板22、23に面するケーシング10の両側壁には、端板22、23を隠蔽する内壁有底円筒形の隠蔽凹部14、15が設けられている。
(3) 羽根車20の直径は90ミリで、全長はおよそ593ミリである。 (4) 羽根車20は、中心穴を有する4枚の仕切板21によって軸方向に5個の領域に区分されている。仕切板21の直径は88ミリであり、中心穴の直径は22ミリである。 (5) ケーシングの左側壁11には、端板22を部分的に隠蔽する内壁有底円筒形の隠蔽凹部14が設けられている。
(6) ドレンパン50は、熱交換機30から落下する結露水を集めるものである。 (7) 第2図及び第6図の破線60、61は、左右の隠蔽凹部14、15の開放端である。
(6) 同左 (7) なし
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第1図(被告)
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第2図(被告)
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第3図(被告)
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第4図(被告)
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第5図(被告)
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第6図(被告)
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第7図(被告)
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第8図(被告)
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